裏磐梯地域の地下水流動は過去に解析されているが,詳しい流動はまだ明らかになっていません。本研究では,五色沼湖沼群で比較的面積が大きい毘沙門沼,弥六沼,銅沼の3つの沼と裏磐梯スキー場に設置した地下水観測孔において水位と水温の連続観測を行っています。観測した水位のデータとボーリング柱状図をもとに裏磐梯地域の地下構造を把握して3次元地下水シミュレーションモデルを作成し,裏磐梯地域の詳細な地下水流動や湖沼水と地下水の交流関係について明らかにしていきます。
研究テーマ「裏磐梯湖沼群における水質と大腸菌群」
猪苗代湖の大腸菌群が近年増加しており,その直接的な原因はまだ解明されていません。そこで当研究室では猪苗代湖とその周辺にある湖沼群を対象にし,大腸菌群の調査を続けてきました。現在は桧原湖北部湖内と流入河川数か所で観測を行い,水質分析と合わせて大腸菌群の計数と同定を行っています。また大腸菌群の遺伝子をみるという視点も加えて,大腸菌群の増加の原因をより深く探っていきたいと考えています。

共生システム理工学研究科 博士前期課程2年 野田真優子
川越研究室
研究テーマ「積雪変化が水環境に与える影響の評価 ―磐梯朝日国立公園を含む流域を例にして―」
地球温暖化により,将来の積雪期,融雪期の変化が指摘されています。また,国外から粉塵流入等の影響により新たな環境問題も顕在化しています。こうした気候システム,社会環境の変動は,水資源,水災害に影響を与えると同時に,水質,土砂生産に起因する物質循環にも変化を与え,水環境への負荷量を変える要因になりえます。こうした諸問題への評価を行うため,東北地方における水循環の主要因となりえる「雪」をベースに,基礎データを取得すると同時にするとともに,過去から将来にかけての水収支,水質,土砂生産量による時空間情報を求めることで水環境へのインパクト量を明らかにすることを試みています。
共生システム理工学類4年 鈴木絢美
横尾研究室
研究テーマ「裏磐梯毘沙門沼の流入表流水の流出過程の推定」
裏磐梯湖沼群の最下流部に位置する毘沙門沼に流入する表流水は,磐梯山の北側斜面に降った雨を起源とすると考えられます。しかし,その雨水がどのような経路を経て毘沙門沼に表流水として到達するのかについてはまだ分かっていません。そこで本研究室は,毘沙門沼に流入する表流水の水量と水質を1時間間隔でモニタリングし,そのデータに基づいて流入表流水の貯留・流出過程を把握することを目的として研究しています。
共生システム理工学類 3年 菅原 惇・皆川光樹
横尾研究室
研究テーマ「猪苗代湖の長期的pH変動の推定モデルの構築とシナリオ分析」
磐梯朝日国立公園に位置する猪苗代湖の湖水のpHは5程度を推移していましたが,1995年頃から急激に上昇し,近年のpHは6.5との報告もあり,中性化しつつあります。この猪苗代湖の中性化の原因として,(1)流入河川の水質の変化,(2)中性の河川水による希釈効果,(3)安達太良山の火山活動,などが関係していると考えられています.これらのうち,何が影響しているのかを検討するため,本研究は猪苗代湖水のpHの長期的変動を推定するモデルを構築し,その原因を明らかにすることを目的としています.さらに,この推定モデルを用いて,将来の猪苗代湖の長期的pH変動をシナリオ分析によって描き出し,今後の猪苗代湖の水の管理の将来ビジョンを検討する材料を提供したいと考えています。

共生システム理工学類 3年 蓮沼 遼
生物多様性に関する基礎データの収集と解析
塘研究室
研究テーマ「裏磐梯の河川における底生動物相」
裏磐梯地域の湖沼群については動物相等について知見の蓄積があるものの,河川については未解明の部分が多く,基礎的なデータの収集は今後の研究のためにも必須と言えます。湖沼を繋ぐ流水域ごとに底生動物相や,その組成にどのような違いがあるか,湖沼への流入河川―流出河川間の比較を交えて解明したいと考えています。また,底生動物のほとんどは有翅昆虫の幼虫であるため,明確な分布や,潜在的な分布を把握する上でも河川の底生動物相の調査は重要であると言えます。本研究では,現在までに桧原湖流入河川である長井川・雄子沢川,流出河川である長瀬川で調査が実施されています。
共生システム理工学研究科 博士後期課程2年 大平 創
塘研究室
研究テーマ「裏磐梯地域における地表徘徊性甲虫類相の解明」
磐梯山の北側に位置する裏磐梯地域は,1888年に起きた磐梯山の水蒸気爆発の影響によって一度裸地になりましたが,その後の植生遷移の進行とアカマツなどの植樹によって現在見られる植生となりました。また,檜原湖の北部周辺には磐梯山の噴火の影響を受けていない場所もあり,そのような場所ではミズナラ林やブナ林が見られます。
オサムシ科を中心とする地表徘徊性甲虫類は移動分散能力が低く,環境の変化に敏感であることから,植生ごとに種組成が異なることが知られています。さらに近年では環境指標生物としても注目されています。裏磐梯地域には,磐梯山の噴火や人為の影響の有無と関わって様々な植生を見ることが出来ますが,植生とそこに生息する地表性甲虫類との関係は明らかになっていません。そこで,本研究では裏磐梯地域,特に檜原湖周辺の植生が異なる場所で地表性甲虫類の採集調査を行い,地表生甲虫類の種組成や分布と植生との関係を明らかにしたいと考えています。現在は,植生が異なる3ヶ所でPT(ピットフォールトラップ)を用いた調査を実施しています。
共生システム理工学研究科 博士前期課程2年 緒勝祐太郎
塘研究室
研究テーマ「表磐梯地域の池沼における底生動物相の解明」
磐梯朝日遷移プロジェクトの研究調査活動によって,裏磐梯地域の止水域(湖沼・池沼)に生息する底生動物については,ファウナや分布の詳細が明らかになってきました。一方,表磐梯地域の止水域の底生動物については,保護上重要なゲンゴロウ類や水生半翅類が分布しており,それらについては分布の詳細が明らかになっていますが,これらの分類群を除けば知見がほとんどありません。そこで,表磐梯(猪苗代湖の北側)の池沼における底生動物相を明らかにすることを目的に,まずは水生植物が豊富な池沼を対象に調査を始めました。定期的かつできるだけ定量的な調査を実施しながら,池内での底生動物の分布の特徴を把握し,周囲の植生や水生植物の分布と底生動物相の関係を明らかにしたいと考えています。

共生システム理工学類4年 林 宏至朗
黒沢研究室
研究テーマ「分子系統学的手法を用いたヒトツバイチヤクソウPyrola japonica f. subaphyllaの正体の解明」
腐生植物とは,根に共生する菌根菌から有機物を吸収し,有機栄養を得る能力を持った植物のことです。イチヤクソウ属植物もその多くが腐生植物であると考えられていますが,他の植物と同じように緑色の葉をもち,光合成も行います。イチヤクソウ(Pyrola
japonica)は,県内に広く分布しており,福島大学キャンパス内をはじめとした様々な場所で見られます。一方,これとよく似ていながら,葉がほとんど退化したものをヒトツバイチヤクソウ(P.japonica
f.subaphylla)と呼び,現在はイチヤクソウの品種として区別されています。中には葉を持たない個体も多くみられ,このような個体は,他のイチヤクソウ属植物と比較して腐生的な性質が強く,光合成はほとんど行わないと考えられます。まさに劇的な変化と言えるでしょう。しかし,この不思議な植物についての研究はほとんどなく,実体は未だ明らかになっていません。
これまでの調査で,ヒトツバイチヤクソウは基本的に植物体が赤いこと,葉のサイズに変異が大きいこと,福島県内では磐梯朝日国立公園内などの数ヶ所で生育地が確認されているに過ぎず,稀な植物であることがわかってきました。今後はDNA解析,生活史,生育環境などの調査から,ヒトツバイチヤクソウの正体と,分類や生態を明らかにしたいと考えています。
共生システム理工学研究科 博士後期課程2年 首藤光太郎
黒沢研究室
研究テーマ「天然記念物駒止湿原における開拓跡地の植物相と植生〜遷移途中にある天然記念物の保全策を考えるために〜」
国の天然記念物である駒止湿原は磐梯朝日国立公園内ではありませんが,遷移途中にある自然環境の保全や管理に関する問題を抱えています。天然記念物の指定地域内に,かつてブナ原生林を伐採し,耕作地とした開拓跡地があります。開拓跡地は湿原の集水域の広大な面積を占め,湿原の保全策を考える上で重要な場所です。開拓跡地は現在ススキ草地になっています。ススキ草地は通常遷移が進み,先駆樹種の優占する林となりますが,これまでのブナ植林などの保全策は,遷移が進まないことを前提として行なわれたものです。適切な保全策を考えるために,開拓跡地の植生の遷移の予測をなるべく正確に行う必要があります。そのため,植物相や植生の調査や樹木の生育状況の調査を行っています。
2013年から2014年に植物相と植生の調査を行うとともに,先駆樹種の成長量や生育している範囲を調べました。その結果,ススキ草地から先駆樹種の林へ順調に遷移が進んでいることが明らかになりました。これを踏まえ,開拓跡地が近いうちに先駆樹種の林になることを想定した管理策を早急に考える必要があることを指摘しました。これらの成果は,『福島大学地域創造』誌に掲載されています(加藤ほか
2015)。
この他,本州では青森と尾瀬の2ヶ所でしか確認されていないかったオゼノサワトンボを駒止湿原で確認しました。その報告の準備を進めるとともに,同じ属で混同されているヒメミズトンボとの分類学的な研究も進めています。
共生システム理工学研究科 博士前期課程2年 加藤沙織
黒沢研究室
研究テーマ「
磐梯山とその周辺地域のラン科植物調査」
ラン科植物は,一般的にもともと個体数が少ない傾向がある上,園芸用採取が横行し,また,種によっては自然遷移によって減少する事が明らかになっている。文献調査では磐梯山とその周辺地域には45種のラン科植物が記録されており,そのうち14種は福島県レッドリスト(2002)で絶滅のおそれのある種として扱われ,保護上重要である。
H26年までの予備的な現地調査や標本調査で,裏磐梯で記録されていなかった種,アキタスズムシ(未記載種),シテンクモキリの生育を確認した。これらはいずれも福島県でも未報告である。また,記録はあるが近年50年以上生育が確認されていなかったタカネトンボ(ミヤケラン)の生育を確認した。
本研究では標本調査を行い、これに基づいたリストを作成するとともに,現地調査を継続することにより,現在の磐梯山周辺地域のラン科植物の生育実態の知見を得る事を目的とする。植生遷移の進む磐梯山周辺地域において,これらの種の過去ならびに現在の生育状況と個体数の推移を明らかにする事は,保全を図る上で基礎的な知見となると考える。
共生システム理工学研究科 博士後期課程1年 山下由美
黒沢研究室
研究テーマ「裏磐梯猪苗代地域の蘚苔類相」
多様な環境に生育する蘚苔類(コケ植物)は,生態系の一次生産者として重要な位置を占め,環境指標生物としても利用されてきました。裏磐梯猪苗代地域からはこれまでに493種類の蘚苔類が記録されており,これは福島県全体で知られている種類の約6割にもなります。この中には福島県の絶滅危惧種のうち約1/4が含まれ,当地域の多様な自然環境を反映しているものと考えられます。しかし,記録の多くは元になった標本の所在が不明で,分類学的な再検討を行うのが困難な状況にあります。そこで各地の標本庫のコレクション調査と現地調査から標本に基づいたリストを作成し,地域の自然の特徴の解明や保全のための知見を得ることを目的に研究を進めています。
共生システム理工学研究科 博士後期課程2年 根本秀一
湖沼や河川の食物網構造に関する基礎データの収集と解析
塘研究室
研究テーマ「裏磐梯地域の止水に生息するウチダザリガニの食性解析」
裏磐梯地域の河川や湖沼群には多くの外来生物の移入・定着が確認され水域の生態系を含む自然環境に及ぼす影響が懸念されています。特にウチダザリガニは,底生動物群集における食物網構造や水域の生態系に負の影響を与えていると考えられています。しかしながら,裏磐梯地域の湖沼においてウチダザリガニがどのような餌資源を利用しているのかを明らかにした先行研究は少なく知見が不足しています。食性を把握することでウチダザリガニが生態系に与える影響について明らかにしたいと考えています。
共生システム理工学研究科 博士前期課程1年 難波元生
遺伝子解析と保全
黒沢研究室
研究テーマ「幻の植物イワキアブラガヤのDNA分析」
イワキアブラガヤ(Scirpus hattorianus)は福島県耶麻
群磐梯町大寺発電所付近で1925年に採集された標本に基づき,牧野富太郎によって1933年に発表された植物です。1939年に戸ノ口で採集された標本を最後に現在まで確認されておらず,現在は絶滅したと考えられており,十数枚の押し葉標本だけが現存しています(その内1枚が福島大学生物標本室に保管されています)。また,イワキアブラガヤによく似た植物が北米に広く分布していることはわかっていますが,標本から両者の形態を区別することは困難で,その実態は明らかになっていません。現在は北米からの帰化植物であるという説と,北米とは隔離して分布していた絶滅種であるという説があり,決着を見ていません。
私たちは残された押し葉標本の一部からDNAを抽出し,”幻の植物”であるイワキアブラガヤの分類を再検討することを目的に研究を行っています。
共生システム理工学研究科 博士後期課程2年 首藤光太郎
兼子研究室
研究テーマ「裏磐梯地域に分布するチビコケカニムシにおける遺伝構造解析」
チビコケカニムシ(Microbisium pygmaeum (Ellingsen))は、都市公園などの劣悪な環境にも生息するカニムシの仲間です。体長は1mmほどで,主に単為生殖を行い雄はほとんどみられないこと,幼生成熟することなど,カニムシ類の中でもユニークな特徴がある分類群です。
これまでに行われた裏磐梯地域の土壌性カニムシ相の調査から, 1888年の磐梯山の水蒸気爆発によって生じた岩屑雪崩の影響を受けた地域には,チビコケカニムシが優占的に生息していることが明らかになっています。しかし,岩屑雪崩にともなう生息環境の激変によって,一旦はカニムシ類が死滅したと考えられる地域に,チビコケカニムシがどのように分布域を広げてきたかは分かっていません。そこで本研究では,裏磐梯地域のチビコケカニムシについて遺伝子解析を行い,チビコケカニムシの遺伝的特徴を明らかにし,その由来について調査しています。
共生システム理工学類4年 佐藤浩一
塘研究室
研究テーマ「止水性ヒメシロカゲロウ属の一種 Caenis sp. の遺伝子解析」
ヒメシロカゲロウ属の一種(Caenis sp.)は,最近になって発見された止水性のカゲロウです。福島県では,裏磐梯地域や表磐梯地域の池沼,土湯温泉町の照南湖などにおいて,本種の生息が確認されています。体長は5mm程度と他のヒメシロカゲロウ類よりも大型で,これまでの研究から,日没後に羽化し,繁殖が可能である時間が1時間未満であるといった生態的特徴が明らかになっています。これらの生態的な特徴から,個体群間の交流や分布域の拡大が困難であると考えられ,裏磐梯地域,表磐梯地域,土湯温泉町の個体群は,それぞれ遺伝的に異なる可能性があります。
そこで私は,各産地からヒメシロカゲロウ属の一種を採集し,遺伝子解析を行っています。遺伝的な差異の有無を明らかにしたうえで,本種がどのように分布域を拡大し,どのように個体群が成立してきたかを明らかにしようと考えています。
共生システム理工学類4年 林 宏至朗
裏磐梯地域のエコツーリズムの現状と問題点に関する研究
川ア研究室
研究テーマ「磐梯山ジオパークに関する研究」
磐梯山ジオパークは,福島県のほぼ中央部に位置する磐梯山を中心として北塩原村,
猪苗代町,磐梯町にまたがって存在する。磐梯山ジオパークでは,磐梯山周辺の五色
沼湖沼群,文化遺産などに触れることができる。本研究では,日本ジオパーク認定地
域におけるジオツーリズムに関わる現状,問題点,問題解決方策を明らかにすること
で,今後,磐梯山ジオパークを推進していく上での課題を明らかにする。
共生システム理工学研究科 博士前期課程2年 佐藤 歩