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五色沼湖沼群案内

 五色沼湖沼群についてご紹介します

 五色沼湖沼群は1888年の噴火によって引き起こされた岩屑雪崩により,長瀬川とその支流がせき止められて形成されました。これらの沼の多くは,磐梯山の火口付近にある銅沼に端を発する地下水を水源として一つに連なっており,吾妻山からの水で潤う桧原湖の水や磐梯山の深層地下水などが混入している湖沼もあり,沼ごとに微妙に異なる多様な水質となっています。そのため,さまざまな水生植物や底生動物を観察することができ,他の地域ではあまりみられない特殊で貴重な水生生物も生育しています。特に,るり沼や青沼の湖底に発達する半球状のウカミカマゴケ・マットは国の天然記念物「阿寒湖のマリモ」にも匹敵する貴重な蘚マットです。2010年に行われた底生動物相の調査では,50種以上の底生動物が確認されました。五色沼湖沼群は,動植物の採集が禁止されている国立公園の特別保護地区にあることから,レッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物の種を掲載した本)にリストアップされている希少種や絶滅危惧種も生育,生息しています。
 噴火により形成されてから歴史的に新しいこの湖沼群は強酸性から中性で貧栄養から中栄養の湖沼群ですが,流下する過程で周りからの地下水が徐々に混入することで酸性度が和らぎ,湿性遷移(水辺で進行する植生遷移)のさまざまな段階を,これらの湖沼を巡ることで間近に観察することができます。火山活動によってできた強酸性の貧栄養湖から始まる湿性遷移の研究はわが国ではこれまでほとんどなく,遷移研究の場として大変貴重です。
 五色沼湖沼群には自然探勝路が整備されており,探勝路のまわりには大小30余りの小湖沼が点在しています。同じ沼でも底や周囲の植物・空の色・風など季節により微妙に色が変わり,訪れるたびに違った独特の美しい景色が楽しめることから多くの観光客が訪れる観光地となっています。遷移に伴う景観の変化が進む中,観光上重要な場所であることから観光地としての景観を守るための水生植物や樹木の伐採,湖沼に生息する魚類への撒餌など人間生活が環境に与える負荷などの影響も懸念されています。また,オオハンゴンソウやコカナダモ,キショウブ,ウチダザリガニなどの特定外来生物や侵略的外来生物の侵入による影響も問題になっており,貴重な自然環境や景観を維持,保全するための方策が求められています。 
 一般に五色沼湖沼群をまとめて「五色沼」とよばれることもありますが,「五色沼」は以下に紹介する湖沼の総称であり,五色沼という名称の沼は存在しません。
 ここでは一般に知られているそれぞれの五色沼湖沼群や関連する湖沼の特徴について,銅沼と,水質や生育植物によって分けられた湖沼をグループごとに紹介します。

        
 福島県における裏磐梯五色沼湖沼群の位置
福島大学 黒沢研究室作成
より見やすい図はこちら★

       

銅沼

銅沼

磐梯山の火口付近にあり,pHは酸性の3〜4
 鉄・アルミニウム・マンガンなどの金属イオンが多量に溶けています。銅沼のすぐ南にある噴気孔から出るイオン化合物が酸化されて硫酸に変わり,これが岩石を風化させ,その成分を溶かし出しているためです。湖底には水酸化鉄を含んだ赤い泥が溜まっているため,全体的に赤茶けて見え,赤泥沼ともよばれます。ミクリの仲間などのごくわずかな水生植物しか沼の中に見られないのは,金属イオンを多量に溶かしこんでいる水質のためです。銅沼には流入する川も流出する川もありませんが,地下を通り北側にある裏磐梯スキー場の中央に湧き出し,この湧水の一部はるり沼へ流れるなど,五色沼湖沼群の水源にもなっています。

るり沼・青沼・弁天沼グループ(銅沼系)

 るり沼の水は銅沼から裏磐梯スキー場を通って流れてきますが,その過程で金属イオンを減らし,酸性度は100分の1位にも低下します。この変化は,るり沼から青沼,弁天沼へと水が流れるのにしたがって徐々に進行します。それでも酸性度が強く,多量のカルシウムと硫酸イオンが含まれるためプランクトンが少なく,湖面が青い湖沼です。どの湖沼も岸からヨシ群落やヤナギ群落が沼の中央部に向かって生育域を広げていて,湖沼の陸化が進む過程を間近に観察することができます。火山性酸性湖沼で間近に湖底の植物群落の発達が観察できる湖沼はとても珍しく,学術的にも貴重です。

るり沼
pHは酸性で4〜5
 五色沼湖沼群の中では一番上流にあたります。蘚マットの発達が著しく,陸化遷移によるヨシの繁茂が顕著であると考えられます。水生植物はヨシ,ガマが生育しています。環境省レッドリストにおいて準絶滅危惧種に指定されているイヌタヌキモが生育しています。大きいもので直径10m,高さ5m程の半球状に発達した見事な蘚マットは非常に珍しく貴重で,展望場所からも間近に観察できます。

青沼
pHは酸性で4〜6
 るり沼と同じく蘚マットの発達が著しく,西岸で遷移が進んでいると考えられます。北岸では樹木が張り出しているため陸化が進まないと考えられ,ヨシはほとんど見られません。ヨシ以外の水生維管束植物は一切見られません。
 底生動物としてオオルリボシヤンマやホソクロマメゲンゴロウなどが確認されています。また,外来種のアメリカザリガニも生息しています。

弁天沼

pHは酸性で4〜5
 五色沼湖沼群の中では毘沙門沼に次いで広い湖沼です。湖岸はほぼヨシに覆われています。生育する水生植物は種類が多く,オヒルムシロ,フサモ,ヒメタヌキモなどが見られます。湖沼の富栄養化に弱いと言われているフトヒルムシロが多く確認できたとの報告もありますが,現在は見られません。

赤沼

赤沼
pHは酸性で4程度
 噴火口付近にある銅沼に近い水質の沼で,流入口を持たない独立水系の湖沼です。赤沼から流出した水は深泥沼下流に位置するヨシ湿原に接続し,そのまま毘沙門沼に注いでいます。鉄分の含有量が多く,他の湖沼とは水質が大きく異なっています。湖岸のほとんどをヨシが覆っていますが,ヨシの根茎も鉄さび色をしています。水生植物の種類は少なく,ヨシとコウキクサの2種類のみです。近年,金属イオン含有量が減少してきており,色が薄くなってきているといわれています。
 強い酸性の水質ですがオオルリボシヤンマやホソクロマメゲンゴロウなどが確認されています。

毘沙門・竜沼・深泥沼グループ

 湖底に蘚マットが発達せず,フサモとフトヒルムシロの群落が特徴的な湖沼で,プランクトンが豊富です。毘沙門沼や深泥沼では湖底からの湧水があるため場所により水質が異なり,生育する水生植物の種類にも違いが見られます。

毘沙門沼
pHは酸性で5程度
 五色沼湖沼群最大の湖沼で他の沼にくらべ酸性度が低いのが特徴です。フトヒルムシロやフサモなどが生育し,沼周辺ではシロヤナギやヤマナラシなどが多く見られます。環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定されているにヒメタヌキモが生育しています。弁天沼と同様にフサヒルムシロは,かつては東岸にも見られましたが,現在は西岸の流入口付近でしか見られません。
 底生動物としては長野県,青森県,山形県,新潟県,福島県にしか分布しないアマゴイルリトンボの幼虫が多数生息し,外来生物のサカマキガイやウチダザリガニと思われる個体の生息も確認されています。また,近年福島県内でも生息が確認されている北米からの移入種であるフロリダマミズヨコエビが広く分布しています。

竜沼

pHは酸性で6〜7
 
水生植物はヨシ,ガマ,フトヒルムシロの3種が生育しています。この湖沼ではヤナギ類などの樹木が湖岸を覆っています。蘚類が発達できないため陸化が進まず,ヨシの繁茂が少ないためだろうと考えられています。

深泥沼
pHは6〜7
 場所によって異なった水質を持つ湖沼です。湖沼の面積が少ないにも関わらず水生植物の種類は多く,9種が生育しています。湖面のほとんどがフトヒルムシロとオヒルムシロの浮葉に覆われています。浮葉の下にはフサモが生育しています。ヨシが湖沼の半分以上を覆っていますが,狭い範囲にガマやミクリなども見られます。ここでもヒメタヌキモが生育しています。開放水面が減少し,ヨシが分布を拡大しているようです。

もうせん沼・弥六沼・父沼・母沼・柳沼グループ

 水質が中性で多くの物質が溶け込み,平地に広がる灌漑用の池や湖沼と同様の水質の湖沼です。そのため,生育するプランクトンの種類や量が多く,水の色は不透明な薄い緑色をしています。ヌカエビなど小型の底生動物の他,フナやウグイなどの魚類も多く生息しています。人為的な影響が比較的大きく,水質の悪化が見られます。かつては豊かな水生植物相が見られたものの,多くが姿を消し,侵略的外来生物であるキショウブやコカナダモが侵入しています。

もうせん沼

pHは5程度
 湖底にはウカミカマゴケのマットが発達し,岸からヨシの侵入があり,湿原への変化が観察されます。

弥六沼
pHは7
 五色沼で唯一,人の名が付けられた沼です。裏磐梯の植林で功績のあった林学博士の中村弥六にちなんで名付けられました。弥六沼へは,いくつもの渓流から多くの水が流れ込みます。そのほとんどは猫魔山方面から流れ込んでいます。その後,父沼,母沼を経由して柳沼へと流れて行きます。環境省レッドリストの準絶滅危惧種に指定されているナガイミクリやモノアラガイが確認されています。

父沼
 小型で浅い湖沼で,湖岸の大部分は岩塊で占められています。水質は弥六沼の影響を大きく受けています。人為的な影響が大きく,藻類が発生しています。北西部の流出口で母沼と接続しています。ミクリ,キショウブ,コカナダモなどの水生植物が生育しています。

母沼
 柳沼の南側に位置し,小型で浅い湖沼です。父沼からの表流水が流入し,柳沼へ接続しています。ミクリが生育しており,キショウブやコカナダモといった侵略的外来生物が見られます。東端の入り江からは塩化ナトリウムと硫酸カルシウムを主成分とする温泉が湧き出していると考えられています。

柳沼
pHは6.5〜7
 弁天沼についで大きく,弥六沼とほぼ同じ大きさの湖沼です。プランクトンが多いためフナ,ウグイ,ワカサギが生息しています。コカナダモやキショウブなどの侵略的外来生物が目立ちます。
 また,外来生物のウチダザリガニと思われる個体やハブタエモノアラガイが確認されています。


参考文献
  • 「裏磐梯湖沼群エリア」(2011年 磐梯山ジオパーク協議会)
  • 「裏磐梯五色沼湖沼群水生植物ガイド」 (2012年福島大学共生システム理工学類生物多様性保全研究室)
  • 「裏磐梯噴火の概要と銅沼周辺の野外観察ガイドマップ」(2010年福島大学共生システム理工学類)
  • 「磐梯火山と湖の生い立ち」(1988年猪苗代盆地団体研究グループ)
  • 阿部 武(2012)五色沼の湿性遷移とヨシ刈り取り,福島県生物同好会会誌 福島生物,55:23-30
  • 塘 忠顕・増渕翔太(2012)裏磐梯地域の湖沼群における底生動物相(予報)〜五色沼及び保原湖湖畔探勝湖付近の底生動物相〜,裏磐梯五色沼湖沼群の環境調査中間報告書,35-38
  • 黒沢高秀・首藤光太郎・高橋啓樹・森康裕・鈴木佐知子・細島尚子,裏磐梯の水生・湿地生植物で生じている生物多様性に関する問題,裏磐梯五色沼湖沼群の環境調査中間報告書,39-44
  • 首藤光太郎(2011)裏磐梯五色沼湖沼群およびその周辺の植物,「きらめく水のふるさと磐梯」水美来基金水環境保全事業報告書


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