福島大学の取り組み ①

福島大学では東日本大震災後に地域の復興に関わる様々な取り組みを行っています。ここでは主に共生システム理工学類が進めてきた放射線に関わる取り組みの事例として、環境中の放射線計測や分析方法の開発などの研究分野や、学生のみなさんが放射線に対する高度な知識・経験を得られることを目指した教育プログラムなどを紹介します。

原発事故に直面した地域の大学として

2011年3月11日の東日本大震災に引き続いて起こった、東京電力福島第一原子力発電所の事故直後には、福島県内の放射線量に関する情報はごく断片的なものしかありませんでした。そこで共生システム理工学類では3月19日に有志の教員20名あまりが集まり、原発事故被災地域にある大学の理系研究者として専門の枠を越えて連携し、自ら現地に赴いて放射線量測定をはじめることになりました。当時は充分な数の測定器もなく、移動に使用する自動車のガソリンも限られ、また津波の被害が生々しく残っている中での調査でした。3月末にその結果をまとめた放射線量マップによって、線量の高いエリアが北西方向に広がっていることがはじめて明らかになりました。この調査結果は政府の避難地域の再設定や福島県の災害対策の基礎データとして用いられることになりました。
この調査活動を契機として、放射線影響をより組織的に調査するため、学内に「うつくしまふくしま未来支援センター(2011年)」および「環境放射能研究所(2013年)」が設立され、今では福島大学は様々な分野の研究者と多数の放射線測定機器を有する国際的な研究機関となりました。
一方で、共生システム理工学類では学生諸君にも是非放射線についての造詣を深めてもらいたく、放射線対策専修プログラムをはじめ、種々の教育プログラムを提供しています。
ここでは、福島大学で放射線に関するどのような研究・教育が行われているか、その一端を紹介します。

収集データの検討ミーティング
(2011年3月31日)

津波被害の残る南相馬市沿岸部での調査
(2011年3月30日)

地上計測によりはじめて明らかになった空間線量のマップ
(2011年3月31日)

福島大学が保有する放射線計測用高度分析機器

現在では共生システム理工学類をはじめ、環境放射能研究所、うつくしまふくしま未来支援センターの各部局に様々な放射線計測用高度分析機器が導入されています。機器の一部を下記に紹介します。放射線の知識を修得して、是非この恵まれた設備環境を利用することをおすすめします。

液体シンチレーションカウンタ

溶液中の放射性物質から放出されるβ線などの強度を測定します。トリチウムなどの検出に用いられます。

ゲルマニウム検出器

土壌や植物、動物などにどのような放射性核種がどのくらい入っているかをγ線を用いて高精度で調べられます。10サンプルを自動測定できます。

試料作成用
収束イオンビーム加工機(FIB)

数µm~数十µmのサンプルを切り出すことができる微細加工機です。電子顕微鏡で観察する試料作製などに使用しています。

イメージングプレート(IP)

生体や材料中で放射性物質がどこにあるかを写真のように見ることができる装置です。

誘導結合プラズマ質量分析装置
(ICP-MS)

プラズマによりイオン化させた原子の質量を測定する装置です。ストロンチウムなどの放射性物質の同定などにも使います。

電界放出型透過型
電子顕微鏡(STEM)

物質の構造を原子レベルの高分解能で観察できる透過型電子顕微鏡です。結晶やナノ粒子の局所構造を観察することができます。
難分析核種の画期的測定法を開発した
高貝先生に聞きました
環境や生体中に存在する超微量成分を分析する、スピード・精度・感度に優れた分析システムの開発に取り組んでいます。現在特に力を入れているのが、福島第一原発の廃炉作業に必要な分析機器の開発です。事故発生後、汚染水中に含まれるストロンチウム90の濃度測定の重要性にいち早く着目、新たに開発したシステムでは、それまで2週間から1か月程度かかっていた分析時間を15~30分にまで短縮することに成功し、すでに汚染水貯蔵タンクの周囲にたまった雨水の測定に使用されています。今後の廃炉作業では、放射性物質除去装置の処理水や建屋地下の滞留水、地下バイパス水などの汚染水の測定が不可欠です。これらの測定には、線量の高さや海水の塩分、地下水のミネラル分など多くの問題があり、こうした課題に対応した分析技術の開発にスピード感をもって取り組んでいこうと考えています。

高貝 慶隆先生
福島大学 共生システム理工学類 准教授