私たちは福島で生活しています。福島で子どもを育てています。
2011年3月11日を，私たちも福島で経験しました。
福島の心理学者として，私たちが福島のためにできることを，この研究所で展開していきます。
震災・原子力災害を経験した被災地の重要なキーワードは「心のケア」です。災害によって傷ついた人々の“心を癒す”ということを意味しています。このことは，世界の様々な災害現場で常に言われてきたことです。東日本大震災と原子力災害を経験した東北地方にとっても，このことは同じです。
ただ，一つだけ大きな問題は，原子力災害を経験した人々にいったいどのような心の問題が生じ，どのようなケアをすれば効果的なのかについては，実はあまりわかっていないということです。例えば，福島の人々は大きな不安やストレスを長期的に経験しながら生活をしておられますが，これほど長期的に不安やストレスを経験した場合に，いったい人間にどのような問題が生じるのか，発達に影響が及ぶことはないのか，よくわからないということを意味します。現在，福島では様々な心のケアが試みられていますが，それらが，原子力災害に起因する不安やストレスを解消することに効果があるのか，どうなのか，まったくわからないということを意味します。
いまだに解明されていない問題ではありますが，放射線による健康被害への不安が，人々の心理的健康や子どもの発達に何か問題を引き起こすのか，もしそうだとするならば，それはどのようなメカニズムによって引き起こされるのかを解明します。メカニズムが解明されれば，放射線被ばくの不安の影響を最小化するのに効果的な方法を開発することができたり，ストレスを低下させるのに有効な方法を見つけることができるのではないかと考えています。
東日本大震災の直後，私たちはそのことを目指して福島大学に「子どもの心のストレスアセスメントチーム」という心理学者による研究集団を結成し，活動を続けてきました。2014年4月1日，同チームを拡張させ福島大学 災害心理研究所が新設されました。
私たちは福島で生活し，福島で子どもを育てている一人の県民として，皆様とともに福島県のために働きたいと考えています。どうかこれからの私たちの研究活動にご理解とご支援を賜りますよう，よろしくお願い申し上げます。
共生システム理工学類 教授
災害心理研究所 所長
筒井 雄二