Hajima OHIRA of 塘研究室

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Tsutsumi LABO. 塘研究室 since 2010-03-21

Hajime OHIRA

福島県の河川における底生動物相の季節変化と地域的差異に関する研究 〜福島県版の水質指標選定及び水質判定方法開発に向けて〜

1.はじめに
自然環境の状態や環境汚染の程度を知る方法として,指標生物を利用する方法がある。底生動物は水環境の汚濁の程度を測るための指標生物として知られており,生物学的及び生態学的知見が深められつつある。底生動物を指標とした幾つもの生物学的水質判定方法が考案されているが,全国一律で決められた指標は地域特性に対応しておらず問題点も多いため,独自の指標や方法で調査を実施している地域もある。福島県においても地域の河川をはじめとする水環境を利用した環境教育の推進や,環境の改善・保全に対する市民のさらなる意識向上のために独自の指標の選定や調査方法を考案する必要があると考えられる。
 そこで本研究では,福島県独自の生物学的水質判定方法の開発及びその方法で用いる指標生物の選定を行うための第一歩として,底生動物相の季節変化と地域的差異における規模や傾向を明らかにすることを目的に,福島県内の複数の水系,河川,地点において,底生動物相調査及び物理化学的水質測定を実施した。

2.研究方法
底生動物相調査及び物理化学的水質測定は福島県内3水系8河川16地点において,2010年12月から2011年11月までの期間,季節ごとに瀬的環境と淵的環境のそれぞれにおいて実施した。
 底生動物相調査の結果から既存の3つの生物学的水質判定方法(全国水生生物調査の方法,ベック‐津田β法,科平均スコア法)を用いて水質判定を行い,瀬的環境と淵的環境の違いや判定方法の妥当性を検証した。さらに,Jaccard共通係数による底生動物相の非類似度を算出し,Ward法によるクラスター分析を行い,底生動物相の季節変化や地域的差異について考察した。

3.結果及び考察
底生動物相調査の結果,3水系8河川16地点から22目93科250種の底生動物が確認された。また,物理化学的水質測定の結果,瀬的環境と淵的環境の間ではpH,DO,NO2-N,NH4-Nの値に有意差が認められたが,一般に水質汚濁の指標として用いられるCODやBODには有意差が認められなかった。一方,生物学的水質判定の結果は瀬的環境の方が淵的環境よりも水質が良い傾向が認められた。このことは,淵的環境を好む底生動物の中には水質の指標として不適当な評価がされているものを含む可能性を示唆しているものと思われる。
 非類似度に基づくクラスター分析の結果,各調査地点の季節ごとの底生動物相は2つのクラスター(クラスターI,II)あるいは4つのサブクラスター(サブクラスターi,ii,iii,iv)に区分された。クラスター間ではCOD,COD(D),NH4-N,PO4-P(D)の値に有意差が認められ,サブクラスター間ではこれに加えて,pH,EC,濁度,NO2-Nの値にも有意差が認められた。また,クラスター間及びサブクラスター間で,3つの生物学的水質判定結果のいずれにおいても有意差が認められた。クラスター及びサブクラスターにおける物理化学的水質項目の数値と生物学的水質判定の結果から,サブクラスターi,ii,iii及びivの順で水質汚濁が進んでいると考えられる。また,調査地点の流程上の位置とそれらが区分されたサブクラスターとの関係から,上流から下流に向かってサブクラスターiv,iii,ii,iの順となること,この傾向は地方や水系に関係ないことが明らかになった。さらに,底生動物相の季節変化は,予想に反して水質判定の結果に影響を与えるほど大きくないことも明らかになった。各クラスターまたは各サブクラスターを特徴づける底生動物の存在を確認したところ,サブクラスター間では出現頻度に有意差が認められる19種群の底生動物が見出された。この19種群の底生動物は,生物学的水質判定における指標生物の候補になり得ると考えられる。また,この19 種群の底生動物の中には,生物多様性に負の影響を与える可能性がある外来種が含まれていた。

4.今後の展望
市民参加型の調査を念頭において考えると,新たに考案する生物学的水質判定方法は既存の方法のように採集場所を瀬に限定せず,瀬的環境と淵的環境の両方から底生動物が得られた場合でも,正しく水質を判定できる方法が望ましい。そのような方法の考案のためには,底生動物の動態に影響を与える様々な環境要素に関するデータ(河川水の物理化学的なデータ以外に,例えば堆積性微細有機物量やその有機物組成,落葉落枝の有無と量,岸辺付近の植生とその分布,採餌環境や巣材環境など)を収集することが必要不可欠である。さらに,本研究によって候補として挙げられた19種群の底生動物を核としながら,それらの定量的なサンプリングに基づく季節消長を把握し,水質指標としての有用性に加えて,生物多様性の健全性を評価する指標としての有用性も検討する必要があるものと考えられる。

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