福島大学放射線計測チーム

 

1.はじめに

 現在,様々な方が通販等で線量計を購入し,自前で放射線量を計測しているのを目にします.今回のように広範囲に放射性物質が飛散した場合には多くの地点で計測し,その情報を共有することは非常に重要です.しかし,市販されている線量計の中には測定結果が専門の機器とかなり違っているものも少なくありません.特に低い線量を計測する場合はこの差は無視できないものに感じると思います.

 ですから,現在使用している線量計がどのような性能(特性)なのかを知ることはできるだけ正確に線量を計測する上でとても大事なのです.



2.放射線計測の基本原理

 放射能の強さはベクレル(Bq)という単位であらわされますが,これは放射性物質から一秒あたり平均何個の原子核が放射性壊変を起こしているかを表しており,放射線はこの放射性壊変の時に放射されます.ちなみに1グラムのセシウム137は3.2兆ベクレルにもなります.

 線量計は基本的に放射線が当たった時の様々な物理現象を利用して線量計に放射線が入射した回数をカウントするものですがすべてをカウントできるわけではなく,カウントのための原理や線量計の検出効率,また,線量計の個体差によっても異なりますが,かなり間引かれてカウントされます.cpm(カウント・パー・ミニット)とかcps(カウント・パー・セカンド)とかという単位は線量計が1分間(cpm)あるいは1秒間(cps)に何回放射線をカウントできたかをあらわす単位です.一般に使われている毎時マイクロシーベルト(μSv/hr)という単位はこのcpmやcpsの値をそれぞれの機器の特性に合わせた変換方法によって変換して得られます.



3.線量計の精度を左右する要因

 基本原理で述べたように,線量計は放射線を捉えた回数を基本にして放射線量を表示しています.ところが,同じ場所で同じ線量であっても機器によって放射線を捉えるカウント数が異なります.なぜカウント数が異なるかにはいくつか要因がありますが,

・計測方法の違い

・センサの大きさ

・エネルギー感度

などが主なものです.いずれにしても,回数の違いを考慮して変換式をつくり,最終的にマイクロシーベルト表示にするわけです.このように考えるとカウント数が異なったとしても,製造メーカがきちんと変換式を作っていればきちんと計測できる気がしますね.



図1 それぞれの線量計でのカウント数は違うけど同じ線量を示すように変換しています.


 しかし,わずかな線量の変化を知りたいときには注意が必要です.たとえば,1μSv/hrのときにカウント数が10cpmとなる(10cpm/μSv/hr)線量計があったとします.この線量計は1分間のカウント数が1減った9cpmのきには0.9μSv/hrと表示します.つまり1分間の計測では0.1μSv/hrの変化までしかわからないことになります.一方,1μSv/hrのときに1000cpmの線量計ならその100倍の感度があるわけで,1分間の計測では0.001μSv/hrの変化まで分かりますし,3秒の計測でも0.02μSv/hrの変化まで分かるわけですから,短い計測時間で高感度の計測が可能になるわけです.

 もうひとつの注意点は放射線がカウントされる間隔は一定ではないとうことです.つまり,同じ場所で同じ線量であったとしても,1分間のカウント数はつねに同じではなく,揺らいでいて不安定なのです.1分間の計測を繰り返した時1カウント揺らいだとすると先ほどの10cpm/μSv/hrの線量計では0.1μSv/hrも値がばらついてしまうわけです.さらに,測定器内部の電気的なノイズの影響なども無視できません.

したがって,正しく計測するためには,線量計の感度と計測時間(線量を表示するために必要としている計測時間)が重要になります.

 ちゃんとした線量計にはこれらの情報がマニュアル等に記載されていますので,ぜひ確認してみてください.少なくとも小数点以下の桁が多いからと言ってその桁まで信用できるとは限らないのです.



4.実際に調べてみましょう.

 一般に計測機器の精度を評価するときには精密さと正確さを評価します.簡単に言うと精密さとはばらつきのなさであり正確さとは値の正しさを意味します.

そこで以下のような計測を行いました.


Ⅰ TCS-171との比較

 手元にある線量計(線量計Aと線量計Bとします)とできるだけ正確な線量計との計測結果を比べてみます.基準とする線量計はTCS-171を用いました.TCS-171は高価ですが,1μSv/hrのとき45000cpmという非常に高い感度であり,エネルギー補償付き(詳しい説明は省きますが,放射線のエネルギーの違いによる放射線のカウント能力(計数率)の差を補正する機能です)で精度が高く,県をはじめ様々な専門機関で使用されている線量計です.


・手順

 ①線量の計測値が十分安定した後,2分程度の間隔で5回計測

 ②異なる線量の地点で数回同様に計測

 ③計測結果のばらつきとTCS-171の示した値との違いを評価


・結果


  図2 線量計A(左)と線量計B(右)のTCS171との比較


 結果は図2のようになりました.線量計Aはばらつきは少ないですが,値が若干高めに出ることがわかります.また,線量計Bはばらつきがやや大きく,値も約40%も低く出てしまっていることが分かります.

 この結果から,線量計AからTCS-171の値に変換する変換式は,

    y  =  0.97x  -  0.04

また,線量計Bについては,

    y  =  1.35x  +  0.06

となり,それぞれの線量計の値をxに代入するとTCS-171で測った際の値をおおよそ求めることができます.


Ⅱ 時間応答

 電源を入れてからどのくらいで値が安定するのかを調べてみました.


・手順

 ①1μSv/hr程度の場所で線量計の電源を入れる

 (線量計Aは0.90μSv/hrの地点,線量計Bは1.17μSv/hrの地点で計測)

 ②30秒毎に値を記録(線量計Bでは15秒毎)

 ③収束にかかる時間と変動を確認



図3 線量計A(上)と線量計B(下)の計測値の時間変化

 

 結果は図3のようになりました.この結果をみる限り線量計Aについては電源を入れてから4,5分程度たってから計測するのがよさそうです.また,線量計Bは値の変動が大きいのですが,電源投入後わずか15秒で最終的な値を出力できているようです.



5.正確に計測するために

 一般の簡易線量計のマニュアルをみると10%~30%の誤差があることが書かれていることが多いです.例えば20%の誤差であれば,0.10μSv/hrの場所で0.08~0.12の値が表示されることを意味します.逆に誤差の表示がないものについては出力される値を一回確認することを是非お勧めします.表示の値が多少ばらついていたとしても,数回計測してその平均をとれば,このばらつきはかなり改善されます.この時,線量計の中には急に値が大きくなったり小さくなったりする場合がありますので,平均をとるときはこのような飛び値を避けることも大事です.

 以上から,個人で線量計を購入して計測する場合には,以下のことに注意して計測するとより正確に計測できると思います.特に低線量を計測する場合には大事なことです.


① 自分の線量計の値がどのくらいずれているのか知る.

② 線量計の値が正しい値を表示するまではじっと我慢.

③ 値がばらつく場合は,時間をおいて数回計測して平均をとる.

(積算線量の測定ができる場合は長時間の積算値と比較してみるのもよいでしょう)

④ 個人で計測値を一般に公表する際にはどのような機器で計測したかも公表するべき.

⑤ β線を計測できる機器はその特性について理解しておく.

  (γ線のみ計測する線量計とβ線とγ線双方を計測できる機種とで比較するときは特に注意)

 

できるだけ正確な放射線計測のために ―線量計編―

(平成23年7月11日掲載, 7月22日更新)

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