福島大学放射線計測チーム

 

 放射線は、私たちの周りにも存在していますが、目に見えないために、常に不安を感じています。 放射線は目に見えませんが、その量を測ることによって、見えない放射線の姿を垣間見ることはできます。ここでは、私たちが実際に身の周りの放射線を測ってみて、分かってきたことを紹介していきます。


1)放射線レベルの変化について


図1 福島市の放射線量の変化


 図1のグラフの青い点は、福島市で測定された放射線量の変化です。放射線量は、3月15日に急激に増加しています(グラフでは、3月15日を0 dayとしています)。その後ほぼ一定の割合で低下し続けています。15日の朝には、原発で大量の放射能の放出が起こっています。そして、急激な増加が起こった頃には、福島市内で雨が降ったことが確認されています。したがって、この雨や、その前に発生した気塊などによって、空気中に漂っていた放射性物質が地面に落ち、急激な放射線量の上昇が起こったと考えられます。原発での大きな爆発は、15日の前にも2回起こっていますが、その時には、急激な放射線量の上昇は起こっていません。また、3月23日(8 day)や、3月25日(10 day)にも雨は降っていますが、その時にも、放射線量の増加は起こっていません。福島市内の放射線は15日の1回の大量放出と、その後の雨や風などの気象の変化によってもたらされたものなのです。


2) 場所による放射線量の違い

 放射線量は、場所によって大きく異なります。図2のA~Dは、それぞれ1mくらいしか離れていない4か所の測定値です(地面から1cmくらい離したところで測定しています)。芝生の上(A)は、コンクリートの上(B)より、高い値を示します。芝生や土は、雨水を含みやすいためと考えられます。Dの道路は、通水性のアスファルトなので、Bよりやや高い値を示します。同じ道路でも、前の日に降った雨がしみ込んだところ(C)は、かなり高い値を示しています。このように、放射線量は、アスファルトの地面上では低く、雨水がたまるようなところや、雨水を含みやすい土や、落ち葉のあるところでは高くなります。


図2 さまざまな場所の放射線量 (マイクロシーベルト/h) 


3) 高さによる放射線量の違い
 ところで、大気中で測定される放射線は、いったいどこから出ているのでしょう。図3は、側溝につながる道路わきの穴の付近の路面から約5cmの所で測っています。測定器をだんだん上げていくと、放射線量は、図3に示すように減少していきます。つまり、大気中で測定される放射線の多くは、地面から発しているものなのです。


図3 さまざまな高さでの放射線量(マイクロシーベルト/h)


4) 交通流と放射線レベル
 放射性物質の付着した車が汚染を拡げていると、多くの人が考えているようです。

とくに、福島県外では、福島ナンバーの車がガソリンスタンドで給油拒否をされる事例もあるようです。けれども、観測された放射線量の変化を眺めていると、この考えが間違っている事が分かりました。そんな測定結果をいくつか示します。

(1) 図1に示すように福島市内で(そして、ほとんどの市町村で)観測される放射線量は、3月15日に急激な上昇を1回だけ示しています。車に付いた放射線が運ばれてきたなら、もっとなだらかな上昇を示し、1回だけでなく、何度も、長い間、上昇が続く筈です。

(2) 車によって放射線が運ばれたのなら、車の往来する道路は、その周辺より高い放射線量が観測されるはずですが、結果は逆です。図4のように、アスファルトの道路よりとその付近の畑ほうが常に高い値が計測されました。このことからも、放射性物質が車や道路を介して拡がっているのではないと言えます。

(4) 車によって放射性物質が運ばれるなら、換気の悪いトンネルには、放射線が溜まって高い値を示すと考えられます。しかしながら、結果は全く逆でした。図5には、市内の信夫山トンネルの中の放射線量を示しています。トンネルに入ったとたん、放射線量は見る見るうちに減少して、トンネルの中では、ずっと低い値を示しています。

 現在、一般の人が行き来する場所で、除染が必要なほど放射性物質が高濃度に車に付着することは考えられません。もっとも、放射性物質の放出が起きている原子力発電所の中や間近では注意が必要で、スクリーニング検査と必要があれば除染が行なわれています。このような場所ではスクリーニング検査を行なっている人が、持ち込まれた放射性物質から出る放射線で被ばくするという例もあるようです。

 口蹄疫やトリインフルエンザが発生した時は、人も車も非常に念入りに消毒していた光景を報道で見た人も多いと思います。これらの病気はウイルスという病原体のしわざです。ウイルスは、生物の体内に入り込んで数を増やし(増殖し)、その生物に重篤な危害を与えます。ですから、ウイルスを1個も逃さないような消毒が行なわれます。一方、原子力発電所から放出された放射性物質は、減ることはありますが増えることはありません。除染が必要なのは高い濃度の放射性物質を付着させてしまったときです。放射線を浴びたからといって除染が必要にはなりません。

ウイルスはうつります(感染します)が、放射線はうつりません。



図4 道路とその周辺の放射線量(マイクロシーベルト/h)



図5 信夫山トンネル内の放射線量

 

身の周りの放射線について(H23.5.7 掲載)

H23.5.10 更新

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