福島大学放射線計測チーム
福島大学放射線計測チーム
福島県北部エリア放射線レベルマップ(平成23年4月9日掲載)
福島第一原発の事故のあといくつかの観測点での空間放射線量の値が測定されているが,測定地点の密度が充分ではなく,放出イベントの後,実際にどのように運搬されたか,また降下物の分布状況は分っていない。
そこで,地表での空間放射線量率の分布を調査した。主要なプリュームが見られた地域ではアプローチが可能な限り 2 km メッシュで計測を行なった。これにより福島県内の放射線レベルが点データではなく,面データとして把握することが可能となった。
調査は 3月25-31日の間に行なった。調査対象は原発から 20 km から 概ね 70 kmの範囲で行なった。一部を除いて 2 km のメッシュで調査を行った。測定点は372地点である。
NaI (Tl) シンチレーションサーベイメータ (TCS-171, ALOKA) で,1 cm - doseequivalent rateを測定した。ただし,一部の 30 μSv/h を超える場所では,電離箱式サーベイメータ (ICS-311, ALOKA)を用いた。
現在の放射線レベルは地表に近づくと増大することから、地表にある放射線源の影響が主体と考えられる。また地表の状態(アスファルト舗装面か土か草地かなど)によって同じエリアでも放射線レベルが異なるため,測定領域全体の分布を均質な条件で調査するためにはアスファルト上での計測が適切であると考えた。
地表から高さ 1 m で,アスファルトの道路隅で道路と地表に平行に検出器を配置して測定した。検出器の時定数を30秒とし、2分間経て値が安定したのを確認した後,30秒に一度連続して5回測定した。この際に大きなばらつきは存在しなかった。
なお,計測行動中の安全確保のため,測定期間中は線量計を装着し,被曝線量の監視を行なった。1日の観測で最大で 45 μSv であった。
測定した値は,福島市での減衰曲線を元に,3月30日の値となるよう,補正した。
この空間放射線量率のマッピングは, 30 μSv/h を超える領域が原発から狭い角度に延びており,放射性物質を高濃度に含んだ汚染大気プリュームが北西方向に移動したことを示している。これは, SPEEDI によるシミュレーションや USDOE の航空機による観測と整合性のある結果となっている。
ただし、山地西側の中通り地方の福島から郡山にかけては 2-4 μSv/h の線量域が存在している。この低い線量の領域はシミュレーションやリモートセンシングには現れていない。この線量の領域と阿武隈高原の高線量域との間にはこれらよりも更に低い線量の領域が存在しており,郡山-福島の放射線量域は,阿武隈高原での高濃度プリュームの
延長として運搬されたのではなく,別の経路で運搬された可能性を示唆している。またどの放出イベントから運搬されたかについても,いくつか可能性がある。
得られたマッピングは,このような放出イベントと運搬経路・降下量のモデル検証だけでなく,今後のヒトへの放射線の影響予測,この地域の農業や畜産業にとって重要な土壌の調査,環境中の放射性核種の移行調査,生物への影響,政策決定等の基礎となるであろう。